「収入が増えなくても可処分所得を増やす方法」 

家計改善の「実践的」且つ「正攻法」の方法を紹介して行きます。

老後資金対策編

 

「収入が増えなくても可処分所得を増やす方法」をテーマとして、固定削減、節税、ポイント還元活用の実施方法を具体的に紹介して参りました。

 

一方、「老後」のお金に関する不安に関しては、年金不信もあり不安を持たないことはなかなか難しいと思います。老後資金対策の具体的な方法について書いてゆきたいと思います。

 

大前提① 国民年金は必ず支払う

 

会社員の方は厚生年金加入(給与天引き)になりますので、年金を払わないという選択肢はないですが、自営業等の方は「国民年金制度は払い損」「年金は将来貰えない」との論調が増えてきた結果、払いたくないと考える方も少なからずいらっしゃるかと思います。

 

しかしながら、国民年金を支払わないというのは(そもそも義務という話は一旦置いて)合理的でない、という点を以下に説明いたします。

 

国民年金は生涯受給可能、国庫負担もありコストパフォーマンスに優れる

国民年金の老齢基礎年金は生涯受給出来る「長生き保険」の側面の強い制度です。民間保険会社の提供する保険商品もありますが、国民年金程のコストパフォーマンスには至ることは困難です。

 

理由はシンプルで、基礎年金の給付費の半分は国庫負担だからです。国庫負担分の半分が税金で賄われている以上、国民年金の受給権利を放棄することは自身が収められている税金による恩恵を放棄することに他なりません。

 

(参考)厚生年金でもコストパフォーマンスは良い

会社員向けの厚生年金であってもコストパフォーマンスが良いことは変わりません。老後は老齢基礎年金に加え、老齢厚生年金を受給可能となりますが、厚生年金の保険料は労使折半で勤務先の会社が保険料の半分を負担しています。また、厚生年金の基礎年金拠出金の額の半分相当する額を国が負担しています。更に言うと、会社員に扶養されている配偶者は保険料負担がないというメリットもあります。

 

■老後の年金受給以外の保険機能がある

事故や病気によって身体の自由が効かなくなった場合には障害基礎年金が支給されます。民間の保険で対応する商品もありますが、国民年金程のカバーはされていません。また、家族を残して亡くなられた場合、残された家族に遺族基礎年金が子供が18歳になるまで支給されます。

 

■インフレ耐性がある

将来の経済環境がどうなるかは予測は困難ですが、仮にインフレとなった場合に物価の上昇が起こった際に現金の価値は低下します。国民年金は物価や賃金の変動に合わせて年金額が調整されますので、インフレ抵抗力を持っています。民間の保険では物価が上がっても受給額の変化がないものが多いです。

 

■制度自体が崩壊する可能性は低い

国民年金の制度自体は崩壊を防ぐ手立てがなされています。

 

「現役世代の保険料負担に上限を設定する一方、年金積立金を最大限利用しながら、現役世代が負担できる範囲内に年金給付を調整」する形の制度運営になっています。

 

マクロ経済スライド制度による給付額抑制の仕組み

この観点から導入されたのが「マクロ経済スライド制度」です。年金受給者が受け取る年金額は賃金や物価の変動によって毎年改定されますが、その改定率を調整し、給付額の増加を抑える仕組みです。

 

本来、年金は物価や賃金の上昇率に合わせて給付額が増えます。しかしながら、少子高齢化に伴い保険料の払い手(現役世代)と受給者(老年世代)の人数のアンバランスが生じていることからマクロ経済スライドが導入されました。

 

現役世代の減少や平均寿命の伸びを考慮して、年金給付額の上昇を物価や賃金の上昇率以下に抑える仕組みとなっています。

 

■年金積立金の運用も活用される

現役世代の保険料負担には上限がある中で、年金積立金(170兆円弱あります)を最大限活用しながら、マクロ経済スライド制度により制度が持続可能な範囲内に給付を抑える仕組みとなっていますので、将来は現在ほどの年金の受給額は期待しない方が現実的ですが、制度自体は相応に堅牢に作られています。

 

■ベストではないがベターな制度である国民年金の保険料は払うことが賢明

国民年金は実際に利用可能な制度の中では最も効率的な制度と言えますので、保険料を払わずに貯金をした方が良い、運用をした方がよいなどといったことはせずしっかり保険料を納めることが賢明です。

 

大前提② 「2000万円問題」を理解しよう

 

もう1つの大前提として、「老後2000万円問題」について正確に理解することが必要となります。

 

「老後を生活するには2000万円ないと無理」「これから2000万円貯金しないと」といった解釈に傾いていた印象がありますが、そもそも金融庁の報告書に記載されていることは何か、それに対して取れる対策は何かという整理をします。

 

金融庁報告書の内容

金融庁報告書で「2000万円問題」について述べられている事実は以下になります。

 

①平均寿命について(3-4P)

2017年の日本人の平均寿命は男性で81.1歳、女性で87.3歳、1950年頃の男性58.0歳、女性61.5歳に比較して大幅に伸びている。

 

健康寿命」についても、2016年で男性約72歳、女性75歳と推計され、9-12年は就労困難な期間が平均的に存在すると推計される。

 

②平均的収入・支出について(8-10P)

高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の平均では月当たりの収入は209,198円、支出は263,718円、毎月5万円程度の赤字(正確には54,520円)が発生している。一方、平均純貯蓄額は2,484万円

 

③退職金給付について(13-14P)

定年退職者の退職給付額は平均で1,700万円~2,000万円程度

 

②の毎月5.5万円程度の赤字が30年続いた時の不足額が2,000万円弱になる(5.5万*12カ月*30年=1980万円)との話が2000万円問題の裏の計算になります。

 

大事なのは高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の平均純貯蓄額は2,484万円と記載されている点です。

 

■「月間5.5万円の赤字」は貯蓄額から許される範囲の赤字を出していると考えるのが妥当

「高齢夫婦無職世帯は平均的に年金給付額以上の支出を5.5万円程度しており、30年この状況が続くと総計2,000万円程度かかるが、純貯蓄額も平均で2,484万円ある」

 

「よって、この貯蓄から不足額を賄っている(貯蓄がなくならない程度の支出に留めている)」というのが金融庁報告書の理解としてはより正確ということがお分かり頂けたのではないでしょうか。

 

■報告書の提言も般的な内容

また、報告書の提言(21P)も以下のようなごく当たり前の内容を語っているに過ぎません。

 

「重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである。」

 

「それを考え始めた時期が現役期であれば、後で述べる長期・積立・分散投資による資産形成の検討を、リタイヤ期前後であれば、自身の就労状況の見込みや保有している金融資産や退職金などを踏まえて後の資産管理をどう行っていくかなど、生涯に亘る計画的な長期の資産形成・管理の重要性を認識することが重要である。」

 

極めて、当たり前のことを語っているに過ぎません。

 

■「公的年金のみでは充実した老後生活を送ることは困難」であることを受け入れる必要

金融庁の報告書は「当たり前」のことを書いてあるに過ぎませんが、今後平均寿命の更なる伸長、年金受給額の現在に比べての減少は充分に起きうる事象です。

 

「2000万円」はあくまで現状の統計をベースにした平均の議論であり、個々人の事情により老後資金事情は異なりますが、「公的年金のみでは充実した老後生活を送ることは困難」という当たり前の事象は個々人で受け止める必要があります。

 

■具体的な対策

公的年金のみでは充実した老後生活を送ることは困難」であることを受け入れた上で、老後(就労期間終了後)に向けて個々人が取れる対策は以下となります。

 

前述の通り、国民年金の保険料を支払うことは大前提条件となります。ベストの制度ではないかも知れませんが、「長生き保険」として他に国民年金以上に効率的な制度は見当たりません。

 

また、年金定期便(できればオンラインでID登録しましょう)で将来の給付予想を定期的に確認しましょう。公的年金の給付水準予想が老後の資金設計の礎となります。

 

  • 固定費削減、節税、ポイント還元活用

特に大きく生活水準を落とさなくても、固定費削減、節税、ポイント還元活用を実施することにより、手元に残るお金を増やすことが出来る具体的方法は当Blogで説明して参りました。

 

・(繰り返しになりますが)まずは効果な確実な方法から実施を

稼ぐことや資産運用は不確実性が伴いますが、支出削減や節税は施策が確実に効果を生む分野です。老後資金を含めたお金に不安があるのであればまず最初に取り組むべき分野です。

 

・世帯当たり月2万円の可処分所得増加は可能

当Blogで紹介した、固定費削減、節税、ポイント還元活用等の手法を実行すると、1世帯あたり月2万円程度を削減することは現実的に可能と考えます。

 

特に2人以上の世帯であれば夫婦それぞれで携帯料金、生命保険・医療保険の保険料の見直しをするだけでも月2万円の可処分所得の増加は現実的な数値と考えます。

 

1人の世帯であっても携帯料金、生命保険・医療保険の保険料の見直しに加えて、他の固定費削減や節税、ポイント還元活用を実施することで月2万円の可処分所得の増加は決して無理な数字ではありません。

 

・月2万円の削減の効果

仮に月2万円の可処分所得の増加をそのまま貯金出来るとした場合、老後資金確保に向けて大きな効果を持ちます。

 

仮に現在40歳だったとして、65歳までの残り25年間、月2万円を貯金出来たとすれば2万円X12か月X25年間で600万円の資金が確保可能になります。

 

また、この2万円をiDeCOの掛金と出来るのであれば、年間所得が400万円であれば所得税、住民税併せて税率30%分の節税が60歳までは可能となりますので、2万円X12か月X20年X0.3で144万円の節税効果を追加的に得ることが出来ます。

 

2万円の可処分所得の増加が65歳以降も持続するとしたら(25年後の世界を予測するのは困難ですのでやや控えめに書かせて頂きますが)2万円X12か月X30年間=720万円の老後必要資金の減少となります。

 

この3つの効果が全て併せるとなんと1,464万円となり、計算される老後の不足額が一気に減少することがお分かり頂けると思います。

 

  • 就業年数の延長

前述の通り老後資金の不足額の1300万円~2000万円という数値は「平均的に」1か月5.5万の不足が65歳以降20年間~30年間継続したという前提から導かれています。

 

65歳以降も就労すれば、上記計算のロジックに基づいても、月5.5万円の不足が起きる年数が減少し、公的年金の受給開始の繰り下げも併せて実施すれば年間の年金受給額は最大4割程度上昇しますので、老後の不足金額が減少する形の計算となります。

 

・就労年数の延長、年金の受給時期繰り下げの合算の効果は大

「2000万円問題」のロジックに基づくのであれば、70歳まで就労期間を延ばすことの効果のみで、老後資金として必要な額は95歳まで生きる前提で、月5.5万円 X 12か月 X 5年で330万円減少することになります。

 

また、65歳で年金受給開始をせず、70歳から受給に変更した場合、現状のルールでは年金額が4割増加します。夫婦で月額15万円の年金額とした場合、月6万円の年金額増加が期待出来ます。老後資金として必要な額は95歳まで生きる前提で、月6万円 X 12か月 X 5年で360万円減少することになります。

 

両方の効果を合わせて、690万円の必要額の減少となります。前述の月2万円の削減の効果と併せるとこれだけで、老後2000万円の不足が解消されてしまう計算となることがお分かり頂けると思います。

 

・就労期間を延長するのは、平均寿命が延びる中では当たり前のこと

長く働く、というのは老後資金問題の最大且つ最も現実的な解決方法になります。資金が足りないので働く、となると苦しいイメージがありますが、仮に寿命が100年、健康年齢も今より伸びることを予想するなら、人生の充実を考える上でも長く働くことが一番の老後資金対策と言えます。

 

■資産運用

老後資金不足の不安があり、「自助」を求められると資産運用をしなければいけない、という結論になりがちです。資産運用を老後資金の確保の手段として否定するものではありませんが、資産運用を実施する前に、前述の公的年金保険料支払い及び固定費削減、節税、ポイント還元活用による家計の合理化は必ず行いましょう。

 

上記で計算をしてみた通り、単純に金融庁の報告書のロジックに基づいて2,000万円問題への対処を検討するのであれば、家計の合理化、就労期間の延長でも充分対応が可能そうであることはご理解いただけたと思います。

 

それでも、老後資金の確保という観点で資産運用を実施する際にはiDeCo(イデコ)の制度を最優先となります。資金は原則60歳まで引き出せない制約はあるものの、掛金を課税所得から控除できるという圧倒的なメリットあり、運用益が出た際も非課税です。具体的な活用方法は項を改めてご説明します。